私立歯学部の定員割れの理由を調査
歯科医師や歯科医院が多すぎるという話をよく耳にしませんか?それなのに歯学部に定員割れがあるというのは不思議ですよね。
現在の歯科医師の数は多すぎるとされており、国や歯科医師会などはこれ以上新しい歯科医師を増やさないようしています。過去には歯科医師が増えすぎて歯科医院の競争が激化するようなことがありました。現在でもコンビニより多いと言われることがあります。
それなのになぜ私立歯学部では定員割れといった状況が発生しているのでしょうか?その理由を調査してみました。
歯科医師は多いとされ、
大学の入学定員を削減
2020年12月末の時点で、歯科医師の数は107,443人(人口10 万人に対する歯科医師数は85.2 人)で、10万人以上の歯科医師が働いています。働いている施設ごとに見ると「診療所」が91,789 人、「医育機関附属の病院」が9,099 人、「病院(医育機関附属の病院を除く)」が3,211人となっています。
年次推移でみてみると「診療所」の増加が続いているようです。年代別に見ると「50~59 歳」が23,769 人と多く、次いで「60~69 歳」が23,136人となっており、39歳以下は24,176人なので若い歯科医師の少なさが目立ちます。
2014年に発表された「歯科医師需給問題の経緯と今後への見解」によると歯科医師の上限数は82,000人(人口10 万人に対する歯科医師数は71.4 人)が望ましいと考えられています。現在、歯科医師10万人という数は上限数を超えており、国や日本歯科医師会も新規歯科医師の削減という方向性は変わっていません。
現在、歯学部は国立大11校、公立大1校、私立大17校の計29大学が設置されています。厚生省(当時)の「将来の歯科医師需給に関する検討委員会」の最終意見(1986年)によって歯科医師の新規参入を20%削減などの施策により、これまで度々入学定員の削減を要請されてきました。
歯科医師の増加を抑えることが目的なので、大学の入学定員削減は現在も続けられています。
歯科医師が増え過ぎたことにより、さまざまな問題が発生
1960年代から1970年代にかけて歯科医師不足が叫ばれ、多くの歯学部が新設されました。人口10万人に対して歯科医師数50人というのが新設の根拠でしたが、10年を要することなく50名を超過。
歯科医師が急増したことで歯科医院間の競争が激化し、各歯科医院の経営状態も年々悪化していきます。特に東京では競争が熾烈だったため、1日1軒のペースで歯科医院・診療所が廃業するという事態も発生。歯科医院の経済的低迷により、新しい技術や機材を導入できず、優秀な人材も確保できない状態に陥り、歯科診療の劣化が問題になりました。
国家試験難化の影響を受け、私立歯学部で定員割れが発生
政府は歯科医師の質は落とさず、人数は減らしたいと、大学定員の削減は継続しつつ、歯科医師国家試験の難化方針を進めます。すると、私立歯学部では受験者数が大幅に減少し、欠員率が50%を超えるといった定員不足が発生しました。
定員割れは2010年を底に、その後6年連続で志願者数は増加。受験倍率も上昇し、定員割れはほとんど見られなくなりました。再び2016年度から国公立・私立とも定員減少に転じることがありましたが、2018年度~2020年度は微増しています。
国家試験合格者が増え続け、歯科医過剰供給状態に
歯科医師の増加が止まらないのは、厚生労働省が考える、現状の歯科医師数を維持するために望ましい歯科医師数82,000人を大幅に超えた国家試験合格者数が出ているのが要因だと考えられます。国家試験の第113回(2020年)合格者数は1,583人、第114回(2021年)は1,687人で、0.9%をわずかながらも増加。
2020年時点で、歯科医師の数は107,443人で、2018年の集計時よりも2,535人増え、増加率は2.4%です。人口10 万対する歯科医師数は85.2 人となり、前回と比べると2.2 人増加しています。微増ながら歯科医師の増加に歯止めがかからず、歯科医過剰供給状態となっています。
一部の私立歯学部で定員割れが問題に
一方で、今また一部の私立歯学部で定員割れが問題となっています。原因は国家試験の難化などに加え、歯科医師の人気がなくなっていることも関係しているようです。「歯科医師は儲からない」という印象が強いことが影響しています。なにと比べて儲からないとしているのか根拠もあいまいですが、確かに過当競争していた頃と比べると年収は劣るでしょう。
しかし歯科医師と他の職種の年収を比べると年代によって違いはあるとはいえ、低いといえるものではありません。
国による新規歯科医師の抑制の動きに変わりないので、国家試験の難易度は高いままです。大学で合格につながる対策や教育体制が整っていないと、受験希望者が減り、定員割れにつながることもあるでしょう。不況やコロナの影響で経済悪化、家庭での経済状況が変わり高額な学費が負担になる歯学部を受験しないということもあるようです。
まとめ
私立歯学部の定員割れは少なくなったとはいえ、一部の大学ではまだ続いている問題です。昔から続く歯科医師の増加は微増になったとはいえまだ続いており、国や歯科医師会の新規参入の歯科医師を増やさないとういう方針は変わりません。そのため歯学部への定員削減の要請はそのままで、国家試験の難易度も高いままというのが現状です。
学費が安く国家試験合格率の高い国立や私立の一部では定員割れは起こりにくいですが、学費の高い一部の私立歯学部では定員割れ問題は続いているというのが現状といえそうです。